甘い生活について


「私はものを考えない最後の世代に属している」
と、俳優のヘルムート・バーガーは自伝に書いている


 
彼はスキャンダルな人間である。ヘルムート・バーガー、54歳、俳優。1966年、当時60歳の監督ルキノ・ヴィスコンティに見出される。『ルートヴィヒ』のバイエルンの王や、マッシモ・ダラマノス監督作品『ドリアン・グレイの肖像』の主人公を演じた。ヘンドリック・ヴェルナーが最新刊の自伝『Ich(私)』について、ヘルムート・バーガーにインタヴューした。



タイトルは予定どおりのようですね。「Ich(私)」はあなたのお気に入りの言葉です。「私」とはだれで、何をさしているんですか。
私はたくさんいます。動物であり、男であり、女でもあります。私はなによりもまず、バーガーというメディアがつくりあげたフィクション、社会的よっぱらい、エクセントリックな俳優です。私には私の楽しみがあり、何ら罪悪感を感じることはない。私は最後の甘い生活を生きてきたわけです。ものを考えない最後の世代に属しています。この本に書いたのはそのことだけです。

自伝を書こうと思った動機は何ですか。
かなり前から自伝を書きたいと思っていました。最近のある出来事がひとつのきっかけになりました。7月に、グリルパルツァーの『サッフォー』で作者役を演ずることになっていますが、ロミー・シュナイダーと私との関係について誤った噂などが広まる前に、自分自身について確実なことを記しておきたいと思ったのです。共著者のホルデーホイアーとは、20年来のつきあいです。

書くことは心の癒しですか、それとも苦痛ですか。
苦痛でした。ルキノ・ヴィスコンティの死から受けた苦しみをふたたび体験しなければなりませんでした。1976年以後、私は彼の未亡人です。私はすべてを彼に感謝しています。彼が私のもとを去ったことを、私は一生涯、悲しみ続けるでしょう。

しかし,あなたはスキャンダルでいっぱいですね。
私だけじゃありません。それは仲間内の遊びのようなものです。私も参加しちゃいけませんか。パパラッチは私にこう言います。
「ヘルムート、その道端で小便してくれ。私には妻と三人の子供がいて、養わなくてはならないんだ」
と。彼らを助けちゃいけませんか。道のどちら側で小便したって、私には同じことです。みんなに気に入られればいいんです。

あなたのファンは映画と現実との違いがわかっているでしょうか。
私もその点は気がかりです。『地獄に堕ちた勇者ども』で、私が自分の母親とセックスする場面があります。あれは映画の中の話ですが、それを観た観客は私を好色漢のように思うでしょう。しかし、現実には私が毎日、母親に電話をしていることなど、だれも知らないでしょう。あるいは、4年前のことですが、私の父が死んだとき、私は母を助けねばなりませんでした。父は母にとってかけがえのない人間でした。母はまる一年というもの、ベッドに伏して動けないような状態になりましたが、最近ようやく元気になりました。

ヴィスコンティは,自分にとって父親のようなものだった、とあなたは書いていますが、あなたには他に模範とするような人物はいませんでしたか。
ヴィスコンティは私にとって、絶対的な父の姿でした。彼には正真正銘の力がありました。私の父にはそういうものはありませんでした。

あまりに無軌道な生活のために、自分は早死にするのではないかと思ったことはありませんか。
まったくありませんね。いままで私はだれにも悪いことはしていません。ですから、天国に行けると思っています。

天国ではだれを誘惑したいですか。
残念ながら、だれもいません。天国にはセックスがないからです。雲と天使だけです。私は白く輝く服を着て雲の上に座り、一日中、ブラームスやベートーヴェンを聴き、時間どおりきちんと昼食をとります。俗事から解放され,退屈するでしょうが。


この文章はベルリン−モルゲンポスト紙のインタビュー記事(98.8/24)を,『ベルイマン自伝』 (新潮社)の訳者・木原武一氏に翻訳していただき掲載許可をいただいたものです。





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